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35 小笠原に行ってきた(3)

小笠原の父島が遠ざかっていく。

西の水平線にはテレビで見たような赤い夕日が沈んでいく。僕はデッキの手すりにカメラを固定して、ぶれないように写真を撮っていた。

「いや、大したことない夕日ですなあ」

驚いて振り向くと、飄々とした感じの老人が立っていた。

格好こそ背広だが、足はサンダル履きだった。

「そうですか?いや、僕は旅慣れていないので、これで十分感動的なんですが…」

(何を言い出すのかな、この人は)と思いながら、少しずつこの老人との会話が始まっていた。

「私の見た中では、ジンバブエの夕日がよかった。ええ、63か国(!)回りましたよ。女房にも先立たれて、息子ももう歳とりましたからねえ。

やることがないので、私はこのデジカメで夕日を撮ったりするわけですよ。幸い、私の時は退職金がたくさんもらえたのでね」

聞けば大正生まれだという。正確には忘れたが、90歳を越すという年齢だ。

しかし、船旅にもびくともしない足腰と、少しも衰えていない耳、そして早口でしゃべる口は健在だ。

こんな元気な老人はそうそういない。

サンダルを指さしながら、

「これですか?いや、足がもう熱くてね。靴なんて履いていられないんですよ。こればっかりは、医者もどうしようもない。何しろ、アイスランドの雪の上でもこれでしたからね」

この船の乗客は多くは60代以上の老人だ。

子供を育て上げ、社会での仕事を終えた人たちである。

しかし人生は長い。新しいスタートを切るのに、ゆったりとした船旅はふさわしい。

「そうだ、今晩メインステージで、『祥子&ラディッシュ』のコンサートがあります。よかったら、いらっしゃいませんか?サンダルでもいいですから(笑)」

「おお、そうですか、音楽をやる方でしたか。いや、我慢してちゃんと靴を履いていきますよ、ははは」

「では、お待ちしてますよ!」

 

「祥子ちゃん、酔い止めの注射、打たなかったの?大丈夫?」

「うん、大丈夫」

ステージ袖で、彼女は気丈に笑った。しかし、微妙にやつれた顔。

船には慣れているはずだが、今回は特にきつかったようだ。

けど、きっと注射がキライなんだろうね…

 

「北星」「時を越えて」

彼女は切々とオリジナル曲を歌っていく。

15年前にキングレコードから「帰ろかな大阪」でデビューした。

僕が参加するようになってから、もう何年だろう、長い付き合いになる。

ギターのマーク・イーストさんは祥子の曲をほとんど全曲作っている。

ピアノの平方・トーマス・元ちゃん。この人は、読者にはもうおなじみだろう。

二人の巨漢(二人合わせて210キログラム)と、のっぽの二胡弾きに囲まれて祥子が歌う、大人の恋の歌。

揺れる船の上でのコンサートであることを忘れるほど、気持ちの良い空間を作り上げる祥子。

「今できること」

彼女は去年の震災のすぐあとに、急遽この歌をレコーディングして、すべての売り上げを被災地に届けるという行動を開始した。

そして目標の1000枚が達成されるや、宮城県の東京事務所に直接出向いて、集まったお金を寄付したのである。

僕は車に楽器を積んでおいたっけ。

「いっちょう演奏やるか?」「よし、やろう」という感じで、事務所の応接室で即席コンサート。

そんな思い出がよみがえる。

気がつけばここは太平洋のど真ん中。

祥子が、マークが、元が歌っている。

今 できること

明日 できること

みんな できること

だから今 できること

今や、彼女自身が船となっていた。

彼女の歌を聴いた人は、祥子ワールドに引き込まれるというより、彼女の船のクルーになって一緒に航海することになるだろう。

なぜ?

彼女は決して人に媚びないが、彼女ほど誠実な人を僕はあまり知らない。

歌に対して、人に対して、人生に対して。

だから、聴く人は知らず知らずのうちに、内に秘められたピュアな感性に魅了されるのだろう。

祥子&ラディッシュは決して高尚な音楽ではなく、立派な生き方を気取るでもない。

笑ったり泣いたりしながら、ただ、「今できること」を精いっぱい生きよう。

そんな思いが、一つ一つの歌に込められているのだ。

僕は客席を見た。

すると、あの人がニヤッと笑って、自分の足を指さしている。

僕も「あ、ちゃんと靴はいてる(笑)」と目で合図した。

次の日の夜は、ピアノラウンジ「エメラルド」で僕と元ちゃんのステージである。

真ん中は、ダンスフロアになっていた。

「これは、踊れるな」

三々五々、集まってくるお客さんたち。

僕は昭和歌謡や唱歌が大好きなので、1部はみんなと楽しく歌うことにした。

「荒城の月」「花」「朧月夜」「蘇州夜曲」「夜来香」などを次々に歌った。

さすが、この年代の人たちは、ちゃんと歌詞を覚えている。

「みんなで歌う」ということのすごさは、いっぺんに空気が変わってしまうことだ。

そして、何にもまして一体感があった。

「みなさん、日本を引っ張ってきてくれてありがとう!あなた方のおかげです」

元ちゃんもCHICAGOの「素直になれなくて」を弾き語りしてくれた。

やっぱりうまい、このデブさんは!

休憩をはさんで、2部が始まった。

「さあ、みなさん、踊りましょう!」

僕は「ブルー・スエード・シューズ」「ジョニー・B・グッド」「監獄ロック」などを歌いまくった。

みんな最初はあっけにとられていた。

静かに二胡を弾きながら歌っていたイメージとかけ離れていたので、まあ無理もない(笑)

音響照明のスタッフたちはやけに熱い人たちで、僕がロックを歌うのを最高に喜んでくれた。

僕の頭からつま先まで、ビデオカメラでずっと撮影していたYちゃん、ありがとう。

祥子ちゃんもゲストで「今できること」を歌ってくれた。

大野靖之さん(小笠原に行ってきた①で紹介)は、「oh, my little girl」「I love you」。

そして最後に二人と手をつないで、僕のオリジナル「心の太陽あらわそう」を歌った。

もう、何もいらない。ただ、今を楽しもう。

人生という船に乗って、大きな波を乗り越えるのだ。

僕はのってくると、椅子の上に乗ったりしながら、あらぬことを口走ってしまう。

「みんな!僕たちはこれから、どこへ向かうのだろう!」

祥子がつぶやいた。

「そりゃ、東京湾でしょ」

楽しかった旅も、終わりに近づいていた。

メルマガで紹介しきれなかったが、みの吉くんやマジシャンのhivikiさんのマジックもすごかった。司会の増田さんも素敵。

最後の夜は、食堂「ふじ」でパーティー。

ここでまたもやロックで真夜中まで盛り上がった。

最後には数人残って、目の前にあるカニや鯛をつついていた。

もう明日はお別れ。でもきっとまた会えるさ。

音響の桜井さんが言った。

「今にあそこのドアが急に開いて、フィリピン人が『NO!』って言うてくるで」

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◆◇芳晴ライブ情報

■2012年5月12日(土) 芳晴ライブ@新小岩chippy

【出演】 芳晴 (歌、ギター、二胡 他)

     平方トーマス元 (ピアノ、歌)

【時間】①20:00 ②21:00 ③22:00 

【料金】music charge ¥2000(入れ替えなし)

【場所】サウンド・ミュージックバーCHIPPY

東京都江戸川区松島3-15-10 2F  Tel 03-3653-1253

 総武線新小岩駅からアーケード商店街をまっすぐ、徒歩10分。

     2012年6月2日(土)木下綾香ライブ @ 銀座貴族

 

レコーディングに参加しました。歌唱力抜群のシンガー。

詳細は未定です。

【時間】19:00~

【出演】木下綾香(vo) 山田高大(pf) 芳晴(二胡)

【場所】〒104-0061東京都中央区銀座 8-8-19 伊勢由ビル B1 tel 03-3573-8150

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